そうだ、絶対そう! この子はライオンさんの男の子!


「すごいっ、素敵! ライオンの耳と尻尾が生えてる男の子なんて本の中みたい! こんな所で出会えるなんて!」

「……」

「あ、だから走るのも速いし、威風堂々みたいな雰囲気なんですね! なるほど、正にライオン! すごいかっこいい……! 夢みたい……!」

「……」


すると、「はぁ〜〜」と、彼は更に大きな溜め息を一つ。そこで私はハッと我に返った。

興奮状態でベラベラと喋っていたけれど、もしかしたらとんでもなく失礼な事を言ってしまっていた……? 感情のまま言葉にしていたせいで何を言っていたのかあんまり覚えてなかったけど、ライオンといえば百獣の王だ。礼節をもって対応すべきなのかもしれない。


「す、すみません私とした事が……失礼な事を言ってしまいましたか?」

「……いや、全然。それより怖くないのか? 俺の事」

「? 怖くないです……」

「さっきまであんなに怯えてたのに?」

「それはだって、全部が急だったので……でももう大丈夫です」

「……」

「……ライオンさん?」


どうしたのかと首を傾げると、ライオンさんはじろりと私を何やら物言いたげな瞳で見つめて、はぁ……と、本日三度目の大きな溜息をつく。


「……なら良いけど。それはそれで、おまえはもう少し警戒心をもった方がいいのかもしれない」


眉間に皺を寄せながらそう言うと、ライオンさんは私に背を向け、今走って来たレンガ道を戻り始めた。その背中を見つめながら、行ってしまうなぁ、私もそっちに行くんだよなぁとぼんやり考えていると、私の視線に気付いた様に、くるりと彼が振り返る。


「行かないのか?」


……つまりそれは、着いて行っても良いという事? 一緒にこのレンガ道を歩いてくれるという事?

「行きます!」と返事をして、彼の背中を追いかけた。この世界であの子を一緒に探してくれる人はこの人で間違いないと確信した瞬間、心強さで足取りは軽かった。