そういえば確か前回もそうだった。始めは喋ってくれなくて、海に着いた途端急に現れた猫さんが話し出したのだ。だとしたら、今回もそうなのかな。何か話し出すきっかけみたいなものがあるのかも。
「……ねぇ。もしかして、また私を連れて行ってくれるのかな? どこでも付いてくよ。連れてって」
「……」
「ここに居ても何も変わらないし、私は猫さんと一緒に行きたいの。私のお願い、聞いてくれる?」
リンと、首の鈴が鳴る。猫は何も言わずに立ち上がるとすらりと歩き出したので、これはきっと了承の意味だと、切り株から腰を上げて迷わず猫の後に続いた。
今回はどこへ連れて行ってくれるのだろう。あれだけ怖かったのに、目的が出来た途端にいつも通りに動き出せるから不思議だ。でも相変わらず猫のスピードに着いていくのはとっても大変で、なんでこんなに速いんだろうと思った。茂みに紛れて見えづらいし、また見失ったらたまらない。
「猫さーん、速いよー」
「……」
チラリと振り返った猫だけど、私を一瞥しただけでまた歩き出す。付いていくのも私の仕事なのだろうか、猫側に容赦は無い。いくら私が高校生といえど、さっきの全力ダッシュで疲れた身体にはきついものがある。
——そして、鈍臭い私は結局、大事な猫さんを見失ってしまった。なんてことだ……。