ガサガサと音がする。知らない振りをしてきたけれど、ずっと向こうに何かが居る。それだけは分かっていた。だってずっと視線を感じる。
でもそれは、この道の外側の事。道を外れた向こうの草木の間、そこに何かが潜んでいる。私をじっと見つめている、そんな気がしてたまらない。……もしかして、呼ばれてる?
「……あの子かもしれない」
ピンと、急に思いついた。だってあの子は私に見つけて欲しがっているのだから、隠れた場所から私を呼んでいても可笑しくないはずだ。
……でも、あの子はすぐに見つかる場所にはいない、そう犬くんが言っていた。そうだとしたらこんなにすぐ側に居る訳がないけれど……だとしても、探しに来たのだから確認しない訳にもいかない。例えこのレンガ道を外れる事になってしまったとしても。
何故か、妙に心臓がバクバクしていた。なんだか悪事を働く前の緊張感に似ている。……この道から出るのはそんなに悪い事なのだろうか。これはきっと、無意識の警戒心。一歩踏み出す事への抵抗感がすごい。
でも、今の私は行くしか無いと思っている。ドキドキ、バクバク、心臓が大きく、鼓動を速める。それが正解かなんて分からない。危ないのかもしれない。でも、もし君が居るのなら……。
——行こう。
不安を振り切り、右足を一歩レンガの外へと踏み出した。足の下には地面の草を踏んだ感覚と、レンガとは違う柔らかな土の感覚。特に何事もない事を確認するとそこへ左足も続き、身体は道の外へ出た。——途端、辺りの騒めきがピタリとやむ。
「!」
先程までのしつこいくらいにガサガサといっていたのと打って変わって静まり返った周囲には、どこからともなく靄が立ち込めてきて、むはっと広がるあの、嫌な気配。