「森……」


真っ暗な森の中。湿気でじめっとしていて、辺りは靄がかかっている。行った事は無いけれど、樹海ってこんな感じなのかな。つまりここは樹海? じっとりと汗をかいて気持ち悪い。纏わりつく空気が暑いのに冷たくて、どこまでも不気味。

これは夢だとすぐに分かった。ということは今日の舞台はここ、樹海だなんて……最悪だ。私はホラーが大の苦手なのに。


「きゃ‼︎」


カサッと、草むらから音がした。何? 風? 虫⁇ まさか、幽霊⁈

夢の中だからなんでも起こる。なんでも起こるから、幽霊も居る。絶対に居る!

カサッ


「っ‼︎」


もう一度草が動いたのを目視した瞬間、驚きと恐怖で弾かれるように私はその場を飛び出していた。

走る、走る、全力で走る。全身くまなく鳥肌が立っていて、まるで見えない紐に引っ張られているみたいにすごく速く走れていた。本当の私は運動神経が悪すぎて走るのもめちゃくちゃ遅いのに。それでも、これだけ走れるのだから逃げられるとは言い切れないのが、夢の中の怖い所。

ひたすらに走り続けてついに限界が来た所で、ハアハアと乱れる呼吸と共に膝に手をつく。後ろを振り返ってみるもそこには特に何もなく、ほっと胸を撫で下ろした。追われていたのか、それとも振り切ったのか……何にせよ全力で走った身体はずっしりと重たくて、近くの切り株によいしょと座ると汗がぽとぽと垂れて落ちた。

ここはどこなんだろう。冷静になって見回してみても、なにがなんだか分からなかった。森の奥深くに入って来てしまった気がするけれど、実際、景色がどう変わったかも分からない。逆に同じ場所な気もするくらいに、森の中には目印が少ない。