まさか、池に落ちた⁈


慌ててボートから身を乗り出すと、驚いた事にもうそこに池は無かった。というか、水の一滴も無かった。大地だ。陸に乗り上げたスワンボートに私は乗っていて、辺りに立ち込めていた霧はすっかり晴れている。犬くんはもうどこにも居なかった。

これはつまり、次の場所に着いたという事?

恐る恐るボートの外に出ると潮の香りが風に乗って届き、振り返ると目の前には海が広がっていた。果てが見えない広さから、元の場所に戻れない事だけは分かった。


「……」


とりあえず、前を向こう。唐突に襲い掛かる不安を振り払うように陸の方へ向き直ると、鬱蒼とした森の奥に向かって赤茶色のレンガの道が続いている。こっちだよと、矢印だけの看板が立っている。

薄暗い森には嫌な予感しかしないけれど、どう考えてもここを進むべきだという事。じゃなきゃわざわざレンガの道の入り口に到着する訳が無い。


「犬くん……いってきます」


今は居ない可愛い彼を心に、勇気を持って私は森の中へと足を踏み出した。