迷いは無かった。でも、この霧だ。何も見えないし何も聞こえてこない真っ白な世界が続くとなんか、なんだかやっぱり……ちょっと怖い。


「……あの、犬くん」

「?」

「お膝に乗ってくれないかな……ちょっと触らせて」


すると答える間も無く光の速さで犬くんは膝にピョンッと飛び乗ってくれて、とても早い判断に感謝して遠慮なく触らせて貰った。もふもふで温かいこの生き物は何なんだろう。とても落ち着く。


「どこまで行くんだろうね。まだまだ先は長いのかな」

「……」

「きっと次もまた全然違う場所に着くんだろうな、どんな所だろう。また明るくて暖かい場所が良いな……そしたらきっと、あの子は悲しんでないって事でしょう? 早く見つかると良いんだけど」

「……」


……あれ? なんかやけに静かなような……。


「犬くん? どうしたの?」


普段とってもお喋りなのに何も喋らない犬くんは、じっと私の膝の上に居る。私に撫でられる、茶色くてふわふわな小さな犬。彼が、私の問いに顔を上げてにっこりと笑った。

と、その時。ゴトンと船底に何かがぶつかるような音がして、ボートが突然動きを止める。それほど大きな衝撃では無かったものの、私の膝から犬くんが跳び降りるくらいの衝撃は伝わり、その一瞬の目を離した隙に、彼は姿を消した。ボートの足元にもどこにも居ない、急に居なくなってしまったのだ。


「い、犬くん? どこ?」