今私はあの子の夢の中に入っている訳だけど、犬くんの言う通り、見方を変えれば私も同じ夢を見ているという事にもなる訳で、二人の夢だと捉えるならば、私の心の中がここに現れても可笑しく無いのかもしれない。
私が乗りたかったから夢の世界で現れて、今私は願いを叶えている。私の思いがこの世界にも反映されるのだとしたら。
「みのりちゃんが強く願えばきっと叶うよ。さぁ、願ってみて。みのりちゃんは何の為にここまで来たの?」
小さな犬の優しく語りかける問いかけが、耳を通って回路をつなぎ合わせる。答えまでの回路。そうだよね、その為にきたんだよねと、カチッとスイッチが入る音がする。
「私はあの子を見つけたい。あの子にもう一度会う為にここに来たの」
「でもあの子はここに居ないよ。こんなすぐ見つかる場所には居ないんだよ。あの子が居るとしたらそれはもっと奥」
「奥?」
「もっと奥深く。行ってみる?」
その問いに応えるように、ボートがゆっくりと進む方向を変え始める。私が操作している訳ではない。でも、私の思いがそこに反映している事は確かだった。
「うん。行く」
私の答えは決まっているのだから、進む先も決まっている。もっと深く、彼の所まで。私の願いが現れるのなら、私が強く願えば必ず彼の元に辿り着けるという事。すごく簡単で、単純な事実が私の背中を押す。
池の周りが霧に包まれ始め、どんどん濃くなるそれに視界が奪われる。ぐんぐん迷い無く進んでいくスワンボートは本来ならもう池の周囲に建てられた柵に衝突しているはずなのに、いくら待ってもその衝撃を感じる事は無かった。ただひたすら真っ直ぐに、霧の中をスワンボートが突き進んでいく。