「じゃあ、君を海に連れて来れたから今日はこれでおしまい」

「……猫さんは私を海に連れて来る為に居たの?」

「そう。君が海に行きたがってたから」

「……そんな事も知ってるんだね……」


私の事がなんでも分かる猫さんは、ふふんと、ドヤ顔をして、尻尾をゆらりと揺らす。なんだか上機嫌な様子。


「君の世界に入るんだから、君の為になりたいじゃない」

「……私の世界?」

「じゃあまた、次の夢で会おう」

「え?」


ハッと目を覚ました。私の部屋だ。カーテンの隙間から光が差していて、朝が来ている事が分かった。つまり、夢から覚めたのだ。当然もう傍にあの黒猫は居ないけれど、なんだかまだふわふわしていて夢の余韻が続いている。


「……また次の夢で会おうなんて初めて言われたな。次回へ続く、って事?」


私はよく夢を見る。今夢の中に居るのだと気付いた瞬間から、私にとっての大冒険が始まる。大冒険だなんていっても他の人からしたらちょっとした事な時もあるし、本当に映画のような世界を体験する事もある。でも、大体が一話完結。急に始まって急に終わるものだった。また会う約束をするなんて、初めての事。


「不思議な猫さん。また会えるかな」


決まりきった毎日の中に、一つの変化。楽しみな約束。例え私の夢の中、私が作り上げた架空の出来事だとしても、それが私の世界で唯一の楽しみである。

今日も一日が始まる。私がいつもの私になる。やるべき事しか出来ない私だ。下の階から母の声がする。起きなさいと言っている。

今日も一日が始まる。詰まらない、全てが決まりきった一日が。