あれ? また返事が無い。


「猫さん? だから戻ってみようと思う……猫さん?」


聞いてる?と、隣を見ると、そこに猫さんの姿が無い。あれ? ベンチに座って無かったのかと足元に目をやると、そこにも猫さんが居ない。


「え?」


その代わり、犬が一匹。茶色いふわふわでまん丸の小型犬が、良い子におすわりをしていた。


「スワンボート乗るの? 僕も行きたい!」


つぶらな瞳をキラキラとさせて、こちらを見上げる可愛い犬が言う。連れてって! 一緒に行こう!と、態度だけで心の声がびしびし伝わってくるので、何を考える暇も無く私はいいよと頷いていた。


「やった! じゃあ早く行こう!」

「あ、でも待って。猫さんが、」

「……猫?」


嬉しそうに今すぐ行こうと歩き出した足をピタリ止めて、犬は振り返る。あんなにふわふわ楽しく明るかったのに、急にしんと静まりかえった小さな犬は、俯き加減に、上目遣いでこちらを見た。