「これは鬱陶しいよ。取りたい。取って」


 と、うんざりした顔でまさか私にそんなお願いをする。


「え! そ、そんな事出来ないよ。飼い主さんが悲しむよ」

「この首輪を付けたのは何でなんだろうね。何の為についてるんだろう。君に可愛いと言われる為?」

「いや……えっと、自分の家の猫だって分かる為じゃないかな」

「これがあるから僕は僕であると? そしたらこれが無くなったら僕では無いの?」

「……そういう事では……ないけど……」


 なんだか難しい話をする猫さんである。悩み多き黒猫さんなのだろうか……。


「……ただ、飼い主さんも可愛いと思って付けただけなんじゃないかなと思うけど……でも、もしそこまで嫌ならさ、嫌だって言ってみたらどうかな。取っても取らなくても、猫さんが美しい黒猫なのは変わりないから」

「……僕は美しい黒猫なの?」


 目をぱちくりさせて問う猫さんに、何をおっしゃる!と一歩前に出た。まさか、ご自覚されてないとは!


「美しいよ! 君の毛並みはまるであの海の様に輝いてる!」

「あはは! あの海の様にって大袈裟!」


 私の言葉に、パッと表情を変えて楽しそうに口を開けて笑う猫さんを見て、まるで人間のような顔をするのだなと思った。喋る猫だから表情も豊かなのかな。難しい事も言うし、なんだか妙な雰囲気を持つ変な猫である。そして同じくらいになんだか変な夢である。

 猫さんはひとしきり笑い合えたのち、「よし」と切り替えた様に私を見た。