「僕が連れてきてあげたんだからね」
そう言ってふんっと鼻を鳴らしたと思うと、猫さんは誇らし気な表情で私を見た。私の返事を待っているその様子が可愛くて微笑ましい。
「うん、ありがとう。今日は猫さんと探検しながら海に来れた、良い夢だった」
本当に、夏休みももう終わるのに特にこれといった思い出も無かったから、夢の中でくらい思い出が作れて良かった。とはいえ所詮夢だからどうせ覚めてしまうし、残念ながら本物では無いけれど。
リン、と鈴が鳴った。それは堤防をぴょんと猫が飛び降りた音だった。
「……もうどこかへ行っちゃうの?」
私に背中を向ける形で立つ猫さんを見て、つい引き止めるように訊ねると、
「こう見えてとっても忙しいんだよ」
振り返った猫さんがやれやれといった様子で宥める様に私に告げるので、とっても残念だけど、仕方なく私も受け入れる事にする。
「そっか……また会える?」
「どうかなぁ。猫は好き?」
「好き。いつも猫の動画見て癒されてるの。撫でてもいい?」
「どうぞ」
するりと寄って来た猫の頭を撫でると、金色の目を閉じて身を委ねてくれた。艶々で真っ黒な美しい毛並みだ。時折首輪に着いた鈴がリン、と鳴る。
「首輪の鈴、可愛いね」
「…………」
何度も耳にした鈴の音に、思わずふと出た一言だった。しかしその一言で気持ち良さげに閉じていた瞳が急に開き、ジロリと私を見詰めてくる。そのギンとした目力の強さは私の発言に抗議している様で。



