「読んでくれたの?」


小高い丘の芝生の上に、小さな男の子が座っていた。いつもは彼からの所、今回は私から声を掛けられたのが少し嬉しい。


「うん。感動した」


全く同じ空の下に居る。私の夢と、彼の夢。今の夢がどちらのものなのか分からないけれど、同じ気持ちで同じ空を頭の中に描いていたなら嬉しい。


「最後まで読み終わって、魔法が使える時と使えない時、どっちが幸せなんだろうなって考えてた」

「うーん。みんなが魔法を使える世界ならやっぱり使えた方が幸せなんだろうけど、でも使えない辛さを知ってるからこそ、より使える幸せを知れて良かったんだろうね」

「……でも、魔法が使えるとなると、区切りが付けられなくなるよね。今まで諦められた事が諦められないで求め続ける事になるのは辛いよ」

「魔法使いの世界だからなぁ。それもまた成長過程って、自分で受け止められたらいいね」


きっともう、本の主人公が魔法を手放す事は無いだろう。使えなくて諦めた事は多かったはずだけど、使えるのを我慢しなければならない場面は特に想像付かなかった。

しかし魔法が使えるようになった事で不便を感じる事がもしかしたらこの先あるのかもしれない。そこまで思い馳せられたなら、まだ物語は続いていたのだ。