いつも通りに早めに教室に着いて、本を開く。私だけの教室は空気がしんとしていて、自分の頭の中の声がよく聞こえた。本に目を通しながらも考えているのは、前回の夢での出来事だった。
毎回の夢の内容は繋がっているけれど、私とあの子の繋がりは分からない。本当に存在する人物だとしたら今この世界のどこかにあの子は居て、私と同じ本を読んでいるという事になる。
そんなやり取り全部、私の願望が夢に現れただけ。この答えが一番正解に近いと思うけれど、簡単にそうとは言い切れない程にあの子の言葉は現実味を帯びていた。今までのやり取りの全てが、私だけの夢なのだという答えから遠回りをさせる。
逆に私の夢なら一つの引っかかりもなく受け入れるのが自然なんじゃないかな。引っかかる事こそが、彼が違う存在だという証明になるんじゃないかな。
なんて、気づけば私の頭の中は彼が現実に存在する証拠探しをぐるぐるしていた。繋がっている夢への不安が無くなった今、彼がもし実在したらという期待が膨らんでいるのだ。そうであれと願うから引っかかるのだと、もう分かっていた。
次に会うのは彼が本を読み終えてから、という事かな。だけどまだ次の夢は訪れない。なんだかいつもより少し長く感じるのも私の気のせいなのかな。
「あ、玉木さん」
おはようと、教室に入って来た中川君に驚いた。まだクラスメイトが来る時間にしては早い。何か用事でもあったのだろうか。