すっと息を吸った彼から告げられたその言葉に、私は思わず言葉に詰まってしまった。何故なら彼のその言葉は真っ直ぐに迷いなく私の心の奥深くに触れたから。
何事も真剣に考えられる君は正しい。それは、胸に突き刺さる言葉だった。その衝撃で気が付いたのは、それが一番欲しい言葉だったという事。私の今を全て受け止めてくれる言葉はそれだったのだ。
私はずっと、私のこの先について真剣に考えてきた。だから沢山勉強もするし、規則の中を生きている。それが今一番大事な事だと理解していたから。
正しい事を繰り返していく先に私の未来が待っている。だから窮屈な今はじっと我慢するべきで、それが正しい事だと教わった。考えれば考えるほど、これ以上に必要なものが私には見つからず、それは私の当たり前の毎日となっていった。それが紛れもなく今の私で、彼がくれたのはそんな私を肯定してくれる言葉だった。
「ありがとう……」
答える私を、小さな彼は変わらず見つめ続ける。その瞳は透き通るように美しくて、今までよりも彼自身が見えるような気がした。まるで覆われた膜を取り払ったような彼の瞳に、今までの彼は殻に籠っていたのかもしれないと、心の中でぼんやりと思った。
「あのさ、僕から聞いてもいい?」
「もちろんだよ」
「君の名前は呼んでもいい?」
「うん。私はみのりです」
「みのり。ここが水族館なのはなんで?」
「えっと、先生の思い出のお裾分け……かな。本当にこんな所だったのかは分からないけど、消しゴムは泳いでないだろうし」