「ううん、言わなくてもいいよ。ただ、君は私の中で特別だったから、名前があったら嬉しいなと思っただけ」


彼の頭をよしよしと撫でる。なんだかしょんぼりとしてしまったようだったから。私の期待に答えられない事に責任を感じたのかもしれない。ちょっとした質問だったのに、そんな気持ちにさせてしまったのなら申し訳なく思う。

きっとこの子は感受性が豊かなのだろう。初めて会った日から続くやり取りの中での言葉や態度を見ているとそう思う。受け取ったものを複雑に頭の中で絡ませて、その疲れが心に溜まってしまうのかもしれない。


「気にしないでね、また会いに来てくれればそれでいいから」

「あの、理由があって……」

「うん。大丈夫、分かってるよ」

「……うん……」


話さなくて良いよと、彼に気を遣わせないように答えたつもりだった。……でも、なんだろう。俯いてしまった男の子はなんだか納得がいっていないような、何かすっきりしていないような、そんな感じに見える。私の返答に何か間違いがあったのだろうか。

……きっとそうだ。夢の中だからと思っていたけれど、本当の私は人と話すのが下手くそだったのを、すっかり忘れていた。