急に黙り込んでしまった男の子は、私から水槽へと視線を移してぼうっと何かを考えているようだった。家庭教師が何か分からなかったのかな……いやでも、私の夢だからなぁ……。

無表情で黙っている彼の気持ちは読めない。この話題があまりよろしく無いという事なのかも。それにしても、この子はどこまで知っていて、どこまでを知らないのだろう。

私は男の子の事を詳しく知らない。私の世界の人だと勝手に受け入れて、あまり知ろうと思わなかった。その証拠に私は、この子の名前を知らない。


「ねぇ、君の名前は?」


沈黙を破るついでとまではいかないけれど、知れたらいいな、くらいの気持ちで聞いてみた。この子に名前があるのなら、私の世界で初めての事。そもそも人が続けて出て来る事も無かったのだから、この子は私にとって特別な存在だった。そんな彼に名前があるのなら、知りたい。


「……」


すると、私の問いにハッとしたように私の顔を見た男の子は、その小さな顔の眉を寄せる。なんだか答え辛そうな様子だった。


「……名前を言わなきゃダメ?」


そう問う小さな声は、彼の葛藤を表していた。言いたくはないけれど、聞かれているなら答えなければと、まるで心の声が聞こえてくるよう。