先生は私の手元に横たわるお土産の消しゴム一つ一つを立たせ始める。ペンギン、アザラシ、白熊、イルカ、マンボウと、一列になって机の上に並ぶ。


「これは俺の思い出のお裾分け。玉木さんの夏の思い出の一つになりますようにっていう、思い出の横入り」


『——海に連れて行ってくれるっていったのに、結局また仕事でダメになりました。勉強の時間は少しも無くならないのに、なんでそういう時間は簡単に無くせるんだろう。私にはいつも勉強しか残らない』


こんな事を、つい夏休み中も変わらず顔を合わせる先生にぼやいた事があった。先生しか言える相手が居なかったから、つい溢れてしまったのだ。その頃は息苦しさが頂点だったのだと思う。その後私は夢の中で海に行った。最近は続く夢のお陰で楽しみが増え、気が紛れている。

先生はきっと、私の辛さを感じとったのだろう。だから何かを残そうとしてくれたのだろう。それが、この可愛らしい消しゴム達。


「五匹も居るから沢山使ってね」

「……ありがとうございます」


先生の言葉にそう返したけれど、本当は使うつもりなんてこれっぽっちも無かった。だってこれは、私の大切な思い出だもの。今生まれた、私の大切な宝物。