引き留めてしまった事を謝って、着いていく事だけに専念する事にした。その先に飛び切り楽しい事が待ってるかもしれないのだから、もういっそ喋らない猫という事にしよう。私の想像力如きでは、今日の物語は猫のストーカーくらいが丁度良いのかもしれない。

スルスルと、こちらの事なんて気にもせずに、人と人との間を抜けていく黒猫を見逃さないよう、必死に追いかける。ビルの隙間や路地裏、塀の上から屋根の上まで、猫は忍者の如く華麗な身のこなしで通り抜けていく。

が、残念ながら私の方はそうはいかない。気がつけば曲がり角を曲がった先、やっと追いついたと思った頃には黒猫の姿は無くなっていた。


「おーい猫さーん」


声を掛けてみるも、返事は無し。辺りを見渡してもあの艶やかな尻尾は見当たらず、可愛い鈴の音も聞こえてこない。完全に見失ってしまった。これから大冒険が始まると思ったのに。

今回の夢の目的を失い途方に暮れたと同時に、今どこに居るのかという所にようやく思考が向いて、ハッとした。気付けば私は街のはずれまで来ていて、目の前の堤防の先には広い海が広がっていたのだ。穏やかな波の音とキラキラと光りの反射が爽やかである。


「海だ……まさか夢で来られるなんて」