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チャイムが鳴り、ようやく今日も放課後を迎えると、荷物を持って足早に教室を出た。今日は家庭教師の日だ、早めに帰りたい。……あれ? でも何か足りないような……。
「玉木さーん」
丁度足を止めたタイミングで名前を呼ばれた。振り返ると中川君が大きく手を振っていて、その手には小さなトートバッグが。
「忘れてない? これ」
はい、と手渡されたそれは、間違い無く私のものだった。今日はハードカバーの本だったから、通学用の鞄とは別にトートバッグに入れて机の横に掛けておいたのだった。だから何か足りない気がしたんだ。良かった、もう少しで読み終わるから夜に読み切っちゃおうと思っていた所だったから。
「ありがとう」
わざわざ追いかけて来てくれたなんて、とっても嬉しい。よく気づいてくれたなぁ、流石中川君だ。私、よく忘れて置いて帰っちゃうから。
「玉木さんって、本読むの好きだよね」
「え? あ、うん……そうなの」
会話が続いた事にびっくりして、何を聞かれた? なんで聞かれた? と、頭の中がチカチカしていると、そんな事は関係無しにニコッと笑った中川君は、じゃあねとあっさり教室へ戻っていった。なるほど、中川君ともなれば渡すついでに一言添えてくれるのだ。すごいコミュニケーション能力である。
ここまでして貰ったんだから今日は絶対に読み切ってみせる。今読んでいるのは魔法が使えない魔法使いのお話。その結末を今夜知る事になると思うと、この後の勉強も頑張れそうだった。