今日もいつも通りに早めに登校した。まだ誰も居ない教室は空気が澄んでいて読書が捗り、家に居るよりずっと良くて、最近ではこの早め登校がすっかり習慣となっていた。
ページをめくる音が吸い込まれていくような、そんな独り占めの空間。それも、時間が経つに連れてぽつぽつと現れ始めるクラスメイトの登場で終わってしまうのだけれど、そこでみんなと挨拶を交わす時間もまた、私は好きだった。
けれど、私とクラスメイトの間にそれ以上のやり取りは特に無い。別に嫌われているとかそういう事ではなくて、単にみんなは私の読書を邪魔しないよう気を遣ってくれている様だった。そんな事全然気にしなくていいのに、私が上手く話せないばかりに気付けばその関係性が成り立ってしまった。
多分、私は何をするのも遅いタイプ。周りの人達を見ているとそう思う。話すテンポも違うし、機転の利き方も違う。私が言葉を選んでいる間に全てが終わっているような時もある。だから自然と一人で行動する事が多くなっていったけど、それに対して不満は無かった。だって周りのみんなに気を遣わせるのも悪いし、私も特に不便は無いし、そうなるとこれが丁度良いのだと思う。
元気な笑い声が聞こえてきてチラリと目を向けると、うちのクラスで特に目を引く人物、中川君が人懐っこい笑顔を振り撒いていた。
中川君はいつも明るくて笑顔が絶えない人。優しくて気遣いも出来て爽やかな雰囲気を持つ彼は、生徒からも教師からも人気がある。
一体今までどんな生き方をして来たのだろう。同じ十六年間を過ごしてきたとは思えない。きっとこれから先も私とは違う毎日を過ごしていくんだろうなと思う。これから先というか、今日の一日だって……あー、もうやめやめ。こういう暗いのは無し。