「お? 中川じゃん、今日めっちゃ早……え?」


何? どういう事? と、やって来たクラスメイトは、目を丸くして私と中川君を交互に見やる。机の上で手を取り合い、何やら普通じゃない雰囲気の私達にそんな反応が返って来るのは当然の事だった。

どうしようと、慌てて離そうとする私の手を、ギュッと握り直したのは中川君。


「こちらはみのりちゃん。俺の大切な人」


にっこり微笑んだ中川君が堂々と告げたその言葉に、クラスメイトも私も目をまん丸にして彼を見た。すると、へへっと悪戯が成功した子供の様な顔で彼は笑った。


「本当はこっちでもそう呼びたかったんだ。良い?」

「あっ、う、うん。もちろん」

「俺の事も名前で呼んで。あ、でも無理はしないで良いよ。一緒に居てくれるだけで嬉しいから」

「は……はい、分かりました」


目の前には、私の手を取り満足気に微笑んでいる中川君。その彼の笑顔になんだかクラクラしている私がいた。急展開についていけていない。こんな事が現実で起こっているなんて……これは夢? 本当に現実? 今日何度目になるかも分からないその問いに首を傾げる。

手に伝わる温もりに、続々と増える驚きが隠せないクラスメイト達。騒つく教室の喧騒と、目の前で微笑む中川君。そんな周りの状況の全てを確認して、あ、これは現実だと私の意識が受け入れる。……受け入れざるを得なかった。だって、中川君が嬉しそうにしてたから。それは私と同じ気持ちだったから。

それは、とても幸せな事だった。