「……もういいよ。もう、ダメだよ」
だから、その力の入った拳の上に、私はそっと手を置いた。固まった心を解してあげたかったから。
「そんな事ばかり言っちゃダメだよ。自分をそんなに責めないで」
「…………」
「私、その気持ち分かるよ。……すごく分かる」
信じた人に裏切られる気持ち。それがとても怖くて、辛い気持ち。傷付かない様、逃げ出す気持ち。
「私ね、ずっといい子でいる事しか出来なくて、大人に言われた通りの自分でしか生きてこれなかった。傷つきたく無くて、ずっと自分自身を曝け出す事から、人と向き合う事から逃げてきたの。だから中川君にも受け入れてもらえないに決まってるって、逃げ出した。だから分かるの、その気持ち」
「…………」
「でも……今こうやって私達は心を見せて合えた。お互いに思いを伝えあえたから、もう大丈夫だと思う。信じられる。少なくとも、私達の間では」
君に知って欲しい。信じて欲しい。君を見せて欲しい。
そして、君と全てを受け入れ合っていきたい。
「私は中川君と、そんな二人になりたい」
同じ気持ちが理解出来たら、もう大丈夫だと確信出来た。信じられる。信じ合えるのだと言い切れる。同じ悲しみを知る私とあなたなら。
中川君は私の手を握り返すと、泣きそうな顔で私を見て、笑った。
「俺も。玉木さんとそうなりたい。玉木さんとが良い」
そして、ごめんねと、お互い謝りあって手を取りあう。全てが丸く収まって、ハッピーエンドにも似た余韻が私達を包み込んだ。
——そこに突然、ガラリと開かれた教室の扉。



