ごめんねと、中川君は視線を机の上に移して呟いた。眉根を寄せて、険しい表情。嫌気が差している、とでもいうような。


「どうせこんな俺を知ったら嫌いになるくせにって思ってたんだ。玉木さんにって事じゃなくて、ずっと誰に対しても。仲良くしてくれる友達にも、先生にも、親にも。何も知らないくせにって、卑屈な事ばっか。いつも誰かに傷付けられてる様な気がしてた」

「……そう、だったんだね」


そうか。それがあの時の小さな男の子だったんだ。私と会う前から君はずっと傷付いて、心が疲れ切っていた。そんな君に、私は出会った。


「玉木さんはさ、そんな俺の弱音を受け止めてくれたよね。どうしたら良いのか一緒に考えてくれて、すごく嬉しかったんだ。現実の俺は人にそんな風に甘えたり出来ないけど、夢の中で玉木さんになら出来た。……なんでか分かる?」

「……分からない」


分かる訳がなかった。中川君の周りには沢山頼りになる人が居るはずなのに、その中ではなく何にも出来ない私を頼ってくれたなんて、どう考えても可笑しな話だった。

怪訝そうにする私を見て、中川君は困った様に笑う。そして、「だって俺は知ってたから」と、私から目を離さず、しっかりとした口調で言う。


「玉木さんはそんな事で揶揄う様な人じゃない。玉木さんならきっと真剣に考えてくれるって。俺、ずっとそんな玉木さんみたいになりたいって思ってたから」

「……え?」

「誰にも流されないで、本当に大切な事、正しい事を貫く姿勢に憧れてたんだ。一人で背筋を伸ばして席に着く玉木さんは、すごくかっこよかったよ」

「……」