扉の前で呆然と佇む私に、彼はにっこり笑って中へ入る様手招きするので、ぎこちない足取りで私は彼の所まで一歩一歩向かった。

ドキドキ、ドキドキ、心臓が大きく動いている。


「早く会いたくてすっごい早く来ちゃった。玉木さんより早く着けて良かった」

「あ……うん」

「俺の事、分かる?」

「……」


信じられない。信じられないけど、分かってる。ちゃんと、あなたの事は分かっている。


「……中川君」


ポツリと呟く様に彼の名前を告げると、彼——中川君は嬉しそうに、うんと頷いた。なんだろう、本当に? これは夢?

こんなに嬉しいのに、これが現実だと受け入れられない。信じられない。今自分の身に起こっている出来事だと思えない。


「……あのさ、俺、初めて知ったんだ」


じっと私を見つめる中川君が言う。それは席に着く様促されて、言われるがまま私が自分の席に着いた時の事だった。中川君は私の前の席に座っていて、私達は机を挟んでお互いに向かい合うようにして座っている。


「玉木さんに、信じてくれないの?って言われて、それで悲しむ玉木さんを見て、俺が信じない事で相手を傷つける事があるんだって初めて知ったんだ。ずっと知らなかったんだ、俺は自分の事ばっかり考えてたから」