そうなの? ありがとう、なんて、以前のように簡単には受け入れられなかった。だってもう、信じた後に裏切られる悲しみを知ってしまったから。

違うって、否定したかった。中川君の言葉は全部受け入れたくなかった。全部、全部嬉しくなってしまうから、無くなった後の悲しみにきっともう耐えられない。信じられない。中川君の言葉は信じたくない。だって全部根拠がない。信じる為の証拠が無い。だって、


「私には、そう思ってもらえるだけの価値がない……」


すると、ガバッと、くっついていた身体を離して中川君が私と目を合わせた。怒っている。険しいその表情は、彼の見せる初めての表情だった。


「誰が言ったの? そんな事」

「……」

「君は俺にとって大切な人だよ、そんな事言わないで。……って、俺が言っても信じてもらえないかもしれないけど……」


怒っていたと思ったら、次は悲しんでしょんぼりとする彼が目の前に居る。ころころ表情が変わる彼になんだか懐かしさを感じた。なんだろう……あぁ、そうか。きっとこれは犬くん。


「……どうしたら信じてもらえる?」


困りきった顔をして真っ直ぐに私に尋ねる彼を見つめながら、今までの彼らとのやり取りを頭の中で振り返っていた。