——それを否定したのはあなたじゃないか!
何を言い出すのかと、ふざけてるのかと怒りが込み上げる。けれど、言い返そうとした先にある彼の瞳は真剣で、とても嘘をついている様には見えなかった。
じりじり、じりじりと追い詰められる感覚に思わず一歩後ずさると、その分目の前の彼が詰め寄ってくる。離したはずの腕がまた掴まれて、強い視線に、私はその場に縫い付けられたように動けなくなる。
「ね? そうしよう。一緒にこの世界を出よう」
真っ直ぐに私を見つめてそんな事を言う、あなたは誰?
「ち、違う! 中川君はそんな事言わない!」
視線を跳ね除ける様に自然と私は大声を出していた。違う、そんなの可笑しいと、心が訴えている。
「中川君は嫌だって言ってたよ。何でなのか、今なら私だって分かる。現実で私と知り合いだってバレるのが嫌だったんでしょう? だから夢の中でしか会わないで、言う事を聞く、余計な事をしようとしない私で居て欲しかったんでしょう?」
感情が溢れ出て言葉が制御出来ないなんて、こんな事は生まれて初めてだった。自分で言っててすごく嫌な気分だったけど、これで全ての辻褄が合うのだからしょうがない。
何も知らない私で居たかった。知らなければ、ずっと幸せだったのに。もう全てどうにでもなってしまえと思った。私の嘘も、あなたの嘘も、もううんざりだ。もう全て、うんざり!
「私じゃなくても良かったくせに、都合よく使わないで! 私にだって心があるんだから!」