分からないと答えた私はもう、中川君の求める私では無い。彼がここまでどうやって来たのかは分からない。なんで私が使おうとしていた魔法が分かるのかも、なんで息が切れるくらいに急いで来てくれたのかも、慌てて私の手を取ったのかも、何も分からない。

でもきっと、これで彼はこんなはずでは無かったと去って行くだろう。それで良い。そうなる為に、私は嘘をついたのだから。それが私達にとって最善の手段なのだから。


「……じゃあまた、ここから始めよう」

「……え?」


返ってきた言葉にハッとして、逃げる様に俯いていた顔を上げると、真剣な眼差しを私に向ける中川君の穏やかな表情がそこにはあった。なんで?と頭の中が真っ白になる。今なんて言った?と、声に出せずに見つめる私と目が合うと、彼はにっこりと微笑んだ。


「俺にとって君は大切な人だから、もう一度俺と仲良くなって欲しいんだ。君の隣に立てる様に頑張りたい。だからまた一緒にいたいなと思うんだけど……良いかな?」

「っ……、いいわけっ、良い訳ない!」


やっぱり! やっぱり聞き間違いじゃ無かったんだ。何を言っているんだこの人は! そんな事をしたら、結局同じ事の繰り返しになってしまう!


「わ、私はもうここに来ないよ! もうやめよう、傷つくだけだよ。もう私は君の為にはなれないんだよ」

「うん。きっとここに居る限り俺は君を傷つけるし、きっとまた嫌な思いをさせると思う」

「! だったら、」

「でもさ、君が教えてくれたよね。ここじゃない外の世界で会おうって。現実で、一緒に二人の世界を作っていけるって」