「なっ、……」
なんで? その言葉は、喉の奥に押し込まれて出て来る事はなかった。何故なら大きく息を吸って吐く彼が真っ直ぐに私を見つめていたから。その真剣な、力のこもった強い視線。そんな目で彼から見られた事は今まで一度も無かった。
「今、何しようとした?」
彼は私の腕を掴むと、そのまま視線を指先へと移す。まるで魔法の有無を確認しているみたいに。
「使った? 使ってない? 俺の事分かる?」
「わ、」
“分かる” と応えようとして、口を閉じる。もしかしたらここは分からないと答えた方が良いのではと頭を過ったからだ。
もう全て消してしまうつもりなのだから、今更私から彼に伝える事なんて何も無い。こんな私に何を言われてもきっと迷惑だろうから。
「……分からない」
「! 本当に?」
「うん……分からないよ」
だからもう帰って良いんだよと、そっと私の腕を掴む彼の手を離す。もう私とは何も無かった事になるから、安心して中川君には次へ行って欲しかった。