そうだ、消してしまえばいいんだ。現実は変わらないとしても、ここは夢の中。夢の中だから、私には出来る。きっと今なら使えるはず。私は知っている。あの丘で、魔法使いが初めて使えたのは消失の魔法だという事を。

立ち上がると、私は部屋のドアノブに手を掛ける。引き留める声は無かった。どちらにせよ、私にもう迷いは無い。

扉を開くと、そこは芝生の上だった。見上げれば一面の星空。流れ星が走る夜空を眺める、あの丘の上。きっとここでなら使えるはずだ。あの時使えなかった消失の魔法。今の私なら魔法を使う自分がイメージ出来る。きっと上手くいくはず。

もう、全て消してしまおう。出会ってからの全部、頭の中から無くなってしまえばいい。きっとこんな感情は要らなかったのだ。知るべきでは無かった。知ってしまったから悲しいのだ。知らないままの私でいれば中川君とも全て上手くいったのに。大きくなった欲を綺麗さっぱり消してしまえば、そうすれば、きっと私は元に戻れるはず。元の、言う事だけを守れる、間違えない自分に。

人差し指を見つめると、キラリと指先に星の輝きが落ちてきた。きっとこれは合図だと、私はそっとその指を、


「ダメだっ!」


急に強い力で肩が引かれると、そこに居たのは肩で息をする中川君だった。