今はもう、道を外れるのが怖い。元の自分に戻る為に、私は今日も机に向かっている。消しゴム達はガッカリした様にトボトボと元の並べた位置に戻ると、そのまま動かなくなってしまった。部屋の中にはコチコチと時計の音が響いている。永遠に続いていく、勉強机と向き合う自分。勉強しかない毎日。それがもう——私には耐えられなかった。

ピタリと手を止めると、「どうしたの? 分からない?」と、先生の尋ねる声がする。分からない? ……分からない。元の自分に戻る方法が分からない。

どうして? 今まで通り、やるだけなのに。そうでなきゃならないのに。そうすれば、戻れると思ったのに。

大人に否定されない自分を、今の自分が否定する。戻らなければと思う気持ちと、それは可笑しいと思う気持ち。受け入れられたいから戻らなければならないのに、そんな自分を自分が一番受け入れられない。


「一度知った事ってさ、なかなか消えないよね」


急に掛けられた声にハッと隣を見ると、先生がじっと私を見つめていた。


「そういう物が積み重なって、人って作られていくんだよ。積み重なったものを崩すのは簡単な事じゃないんだよ」

「……」

「でも、パッと消えてくれたらいいのになと、思う時があるよね。そんな魔法みたいな事、現実では起こらないけど」

「……!」


パッと消える、魔法。そのキーワードは私にとってとても身近な物だった。