真っ暗闇の中、シクシクと泣く声が響いている。誰の声だろうと思ったら、それは私の声だった。シクシク、シクシクと泣いている。そうか、私は泣きたかったのかと、ストンと心に落ちてきた答えがカチリとはまった。そういえばもうずっと泣いていなかった。いつからかなんてもう分からない。それはずっと昔の話で、そんな自分の事はもうすっかり忘れていた。

忘れるくらい昔なのだから、物心つく頃にはそうだったと思う。ずっと頑張ってきた自覚はあるけれど、それが私の当たり前だったので、悲しくて泣く様な事はいつの間にか無くなっていた。だって、親の言う事はいつも正しくて、その通りにすれば大人はみんな私を褒めてくれたから。えらいね、すごいね、しっかりしてるね。頑張る私に与えられる言葉。その言葉が私を支え、私という人間を作ってきたと思う。

正しければ褒められるし、間違えれば怒られる。だから幼い私は褒められる為に正しい事を優先して行動する様になった。怒られるのは出来ていない証拠だから、出来ないで褒められない自分はどうしても受け入れられなかったのだ。だって私は出来る子だと、大人はみんな言っていた。出来るのが私だから出来ないのは私では無いと。私にとって間違える事は大人に自身を否定される事と同じ意味を持っていた。

大人に否定されるのが怖かった。なぜなら、彼らに認められる事が私の全てだったから。認められて、褒められる、それが自分。だから私は自分の感情よりも正しい事を優先してきて、今の何も無い私が居る。

勉強が出来る事。規則正しい事。聞き分けが良い事。この毎日を繰り返す事は将来の幸せに繋がっているのだと、大人の言っている事から考えればすぐに理解出来る事だった。だからこれで間違っていないと、窮屈でつまらない毎日も、これしか出来ない私も、今だけの辛抱だと受け入れてきた。

それが、私の意思だと思っていた。そんな私はずっとひとりぼっちだったけれど、それでも大丈夫だった。だって大人からの未来の保証があったから。それが無くなる事の方が怖かったから。そこに残される何も出来ない自分を知りたく無かったから。ずっとずっと、ずっとそうだった……でも、今は違う。