嫌だ、最悪だと溢す。何度もなんども。何度もなんども、彼は地面に向かって吐き捨てる。もう嫌だ、消えたいと。
途端。何かが近づいてくる気配がして、私はハッと我に返った。こんな事になるなんて思いもしなくて、引きずられる様に私も軽くパニックになっていたけれど、ここはあの樹海。今はそんな場合では無いのだと気がついた。来る。あの黒い影が、彼の思いに応える様に近づいてくる。私が何とかしないとっ、
「な、中川君、聞いて。私は見つけられて嬉しかったよ。中川君だって知れて良かった」
「そんな訳ない。玉木さんは俺みたいな奴は嫌いだ」
「嫌いじゃないよ! ずっと尊敬してたよ、中川君の事。知る前からずっとそう」
「知ってたら尊敬なんてしてないくせに。こんな俺見てどう思う? これが俺だよ、喚き散らして、みっともない、情けない!」
「情けなくなんてないよ! 中川君はそんな自分を全部抱えて生きてきたんでしょ? すごいよ!」
「……すごい? どこが」
ずんっと、重い声色だった。ひたすらに前を見ず、自分に投げかける様に地面に向かって話していた中川君が、ゆっくりと私へ目を向ける。真っ黒な——まるで恨みのこもった瞳だった。
「いいよね、玉木さんは。心が強くて綺麗だから、嘘つく自分も弱くて情けない自分も居ないもんね。君に俺の気持ちなんて一生分かんないよ」
「! そんな事ないっ、私にだって嫌な自分も嫌いな事もあるよ!」
「でもなんとかなるでしょ? クラスで一人浮いてても何にも気にしないで居られる人に、愛想振り撒いて媚び売らないと生きていけない俺の気持ちなんて分かる訳ないんだよ!」
「!」
「始めからずっと、なんでこんな事になってるのか玉木さんには分からないだろ? もう良い、もう良いよ」