聞こえてきたと同時に、パッと世界が切り替わる。それは本当に一瞬の出来事で、瞬きの間に私は靄の立ち込める暗い森の中に立っていた。じめっとした嫌な空気が身体にまとわりついて離れない。この場所を、私は知っている。もう何度もここには訪れたのだから。
振り返ると、そこには制服姿の彼が居た。見慣れたその姿は私の知っている彼で間違い無い。話した事こそ数える程しか無いけれど、毎日目に映る彼と変わらない姿のその人は、俯き加減の顔から上目遣いの二つの瞳で、じっと私を見つめて立っていた。
「なるべく長くここに居てって言ったのに」
何故なのかと、私を睨みつける。裏切り者だと、なじられている様だった。信じていたのにと。
「もう信じられない。君も、俺も、俺は、全部見せたのに、全部、知られた……」
「中川君」
「そう、中川君。中川君はこんな奴だった。俺の全部は嘘。俺の外も中も、全部嘘。嘘ばっかりで、何が本当なのかも分からない。幻滅したでしょ? バレちゃった、玉木さんに全部……もう駄目だ」
ぶつぶつと呟く様に言うと、両手で頭を抱えてフラフラと俯き、もう駄目だと何度も口にする。
「玉木さんに迷惑までかけてこんなっ、探してって言ったのは俺だ、ここに居てって言ったのも俺、見つかりたく無かったのも俺……どうして? どうして見つかったの? どうして見つけちゃったの」