この、『夢の成り立ち』の本について、私は彼に何も話していない。私自身最後まで読めていないにも関わらず、全ての内容がここに存在しているなんて辻褄が合わないのだ。この本棚に題名を持って存在するという事は、彼が事前に知っていて用意してくれたという事になる。そんなのまるで、私の代わりに彼が読んでくれたみたい。魔法使いの本みたいな、私の話を聞いて読んでくれた、みたいな……でも、彼はこの本を知らないはず。

……知っていたとしたら? 

私がこの本を読んでいると、知っている人。


「……あ」


一人だけ存在する。私に何の本を読んでいるのかと尋ねた人。朝の早い二人きりの教室で、私は確かにその人に話した。最近よく夢をみるのだと。だからこの本を読んでいるのだと……でも。


「まさか、そんな事って……ある?」


いつも明るくて笑顔の絶えない、優しくて気遣いも出来て爽やかな彼。人懐っこくて人気があって、私とは正反対の生き方をしてきた様な人。


「……中川君」


名前を呟いた、その時だった。


「……なんで?」