「うちにおいでよ。風邪をひかなくても、雨に濡れれば心は落ち込むでしょう? 落ち着くまででいいからさ」


雨をやませてあげたい。これは君の心に降る雨だ。落ち込んだ心を一人で晴らすには沢山の時間が必要なのだと、今の私は知っている。君と関わり、変わる事が出来た私には分かる。ずっと変わらないと思っていた自分の世界は、一人では難しくても、誰かに受け入れてもらう事で簡単に形を変える事があるのだと。


「……で? 落ち着いたら君はずっとここに居てくれるの?」

「……え?」

「今落ち着いて、それで満足して、で、君はまたこの世界を出る為に頑張るの?」


びっしょりと濡れた髪から覗く力の無い金の瞳が、ジッと私を覗き込む。返す言葉が見つからない私を見て、彼はふと、小さく嘲笑う様に口角を上げた。


「なんかもうよく分かんないや。見つけてもらいたかったはずなのに、もうこのままでいいや、とも思うんだ。もう全部受け止めてもらえたし。今が一番幸せなんだと思う」


すると、雨が徐々に小降りになっていく。ポツリ、ポツリ——ピタッとやんだ、雨。


「そうだよ。もう君がこっちに来てくれて、俺を見つけてくれて、俺は今幸せなんだ。だからなるべく長くこの幸せを続けさせて。君なら分かってくれるよね?」