「猫さんは……?」
「もういない」
「……え?」
「もう、どこかへ行っちゃった。この森の、どこか」
「……」
「もう嫌だって、首輪を取って行っちゃった……」
そして、千切れた首輪に目をやると、男の子はまた泣き出した。
「あの黒猫は、君の猫さんだったの?」
「うん」
「そう……そうだったんだ」
相当ショックだっただろう。目の前で飼い猫が首輪を引き千切って逃げて行ったのだ。この森の中ではもう見つからない。靄の中へ溶け込むように走り去る黒猫の後ろ姿が、ありありと目に浮かんだ。
「……悲しいね……」
隣にしゃがみ、男の子の背中をさする。私もショックだったけど、この子の気持ちを考えたら私の悲しみは我慢するしか無かった。