ふと、遠い海の先へ視線を戻したライオンさんは穏やかな表情で、固い声で話しだす。


「だから俺はライオンで、王様だった。君の勘は間違ってないよ。君は全部間違ってない」


私に視線を戻したのはライオンさんで間違いないはずなのに、その表情から、口調から、そこに居るのはもう違う人格を持った人なのだと察した。今まで会った誰とも違う。もしかしてあなたは……


「君、なの?」

「……」


微笑んだまま、その問いに彼はゆっくりと口を開いた。


「本当は、ライオンになんてなりたくなかったんだ。だから城なんて無い方が良いと決めたのに、ライオンのままの自分は何も変わらなかった。俺の根っこは偉そうで自分勝手でひとりぼっちのまま」


そう言う彼は自嘲的な笑みを浮かべていて、そんな事ないよと言ってあげたかったけれど、口を挟める雰囲気では無かった。きっと今は聞く時間なのだと思った。彼の語る、彼自身を。


「外向きの犬の自分は人との関わり方として楽だけど、何か違う。あんな風になりたかった訳じゃない。子供なんてもっと手に負えない。自分勝手なわがままばかり込み上げて、制御出来なくなる」

「……」

「だから、猫に憧れたんだ。自立して自制心もあって気遣いも出来るのに、決して無理はしない。そんな人になりたいと思ったけど、向こうから嫌われた。猫の自分になれなかった。猫であると現実が分かるんだ。間違っていると冷静な自分に否定されて、自分の本心と行動の差が埋められなくなる。君と居る今だって本当は間違ってるのは分かってるんだ」