窓際に椅子を持ってくると、腰を下ろして私は外の景色を眺めた。あんなに来たかった海に今、私は居る。この海は私にとっての憧れであり、願望であった。だから現実の代わりにここにある。あの子が私の為にこの場所を用意してくれたから。

あの子と出会って、あの子の心の真ん中に置いてもらえて、私は今、人に大切されていると実感していた。人とこんな風に関わり合う事は初めてだった。誰かにとっての、優しく、大切にするべき何かにして貰えた事。それが他の誰でも無く私であるという事——両親にももちろん大切にしてもらっていると思うけれど、それとは違う、私を変えてくれた、初めての経験。

私の親は、私を大切に思ってくれている。けれど私自身の事よりも、私の未来を大切に思う気持ちの方が強い様に思う。でもそれで間違っていないのだ。大切に思うから私の将来を心配してくれているのは分かっている。大人は自分の経験上何が必要なのかを知っているから、今の私がするべき事として知識を詰め込む為に勉強をすすめている。毎日毎日、いつかの私の未来の為に。それが間違っていないと理解してはいるけれど、今の私はふと疑問に思うのだ。本当に必要な事ってそれだけなのかなと。

だってあの子が私に気づかせてくれた。決まりきったルールも何も無いこの場所で、勉強する事も、ひとりぼっちで本を読む事もなく、ずっと誰かと先の見えない何かを探し続けるこの時間は、私にとって他の何とも変え難い大きな価値を持っていた。あの子の心の中に入れてもらって、思い出を振り返ったり、心配しあったり、優しくしてもらったり、それで満たされていく私が居る。きっとあの子も同じ様に思ってくれていると信じている。だからあの子に会いたくて、私は今もまだここに居て……

……あれ? そういえば、心配しあったり、優しくしてもらったりしたのは猫さん達との話だ。なのについあの子の気持ちだと捉えてしまう自分がいる。でもそれも間違いでは無いはず。だって猫さん達が私に優しいのは、あの子の世界で生まれた存在だからだ。きっとあの子が私を嫌えば、彼らも私を嫌うはず。元々のあの子が優しいから彼らも優しいのだから、つまりあの子とあの三人は……え、待って。