互いに口を閉ざしたまま、私達はずっと海を眺めていた。気づけば空は段々とオレンジ色に変わっていて、太陽は夕焼け色に輝いている。ここに来てからすっかり一日という概念を忘れていた。きっとこれから夜がやってくるのだろう。
「……帰ろう。家を用意してある」
海沿いの歩道を歩き始めるライオンさんの後に私も着いていくと、一軒の小さな家の前で彼は足を止めた。それは街並みに馴染んだ赤茶色のレンガ造りの可愛らしい一軒家で、中へ案内されると、ここへ来る前に猫さんと来たあの家と全く同じ間取りであった。
しかし家具など内装は新しい物が使われていたので、今晩泊まる事には何の不便も無さそうである。大きな窓からは家の前に広がる海が一望出来て、ぽっかりと空に浮かぶ月の光が海にゆらゆらと道を作っていた。外はすっかり夜になっていた。
「明日また迎えに来る。じゃあ、また明日」
「うん、また明日……あのっ、ありがとう!」
家を出ていく間際のライオンさんにお礼を言うと、肩越しに見えた彼の口元が小さく笑っていたのが見えて、ほっと息をついた。なんだかずっと怒っている様に見えたから……何故なのか理由は分からないままだけど。
パタンと、扉が閉まると同時に、しんと静けさが部屋を包み込む。一人になったと自覚すると、途端に寂しさが押し寄せてきた。ひとりぼっちには慣れてるはずなのに……きっとここに来てからずっと誰かと一緒に居たから、彼らのおかげで私は変わったのだろう。
そういえば、ここでは勉強する事も、ひとりぼっちで本を読む事もしていない。それが私のやるべき事で、こなすべき毎日であったはずなのに。