「私、ここに来た事ある」


そう。これは初めて黒猫を追いかけたあの日の夢。猫さんに連れてきてもらった、あの日の海。

あの子が知らない、私と猫さんだけで来た海。


「ここの事まで知ってるの?」

「おまえの為にここも生まれたんだろ?」

「生まれる……? あ、スワンボートの時と同じって事? 確かあれは猫さんが、私と繋がったって言ってた様な……」

「ここは図書館と同じだよ。ここはおまえの海」

「私の海……?」


試しに想像してみた。海といえば海の仲間達消しゴム! すると、堤防に一列に並ぶ様に海の仲間達消しゴムが現れて、次々に海へぴょんぴょんと飛び込んでいく。

わ! 出来た!と驚いたと同時に、あんなに小さい子達にはこの海は危険では……?と頭を過ぎった。だって大きな波が来たら一発で飲み込まれておしまいだ。大切な仲間達のそんな姿は見たくない。どうしようかと慌てて対策を考えていると、ポンッと、何か小さな破裂音が海の方から聞こえてきた。


「え? え? 大きい!」


なんと、海には消しゴムだった頃の面影なんてこれっぽっちも無い大きさで、まるで本物の動物達の様に悠々と海を泳ぐ彼らの姿があった。なるほど……これなら波に攫われる心配もないだろうけど。


「なんか、なんでも出来る気がして来た……」

「ここはそういう場所だ」

「そういう場所……」

「図書館でも海でも、おまえの為の物はなんでも揃う。この街は今、その為にあるのだから」


海を見つめたまま、ライオンさんは言う。告げられたこの街の事実は私にとってとても衝撃的なものであったけれど、視線の先で楽しそうに泳ぐ元消しゴム達を無表情で見つめるライオンさんはどこか不機嫌で、私は生まれた疑問を口にする事が出来なかった。