生まれて初めて聞いた単語だと、意味が分からないまま言葉を繰り返す私に、ライオンさんはにやにや笑う。ここに来てからよく笑うなぁと、ぼんやり思いながら間抜けに次の言葉を待つ事しか出来なくて、そんな私にやれやれとライオンさんは口を開いた。


「ここはおまえの為の場所だから、読みたい物があるなら何でも出てくるはず。もしここに無いとしたら、それはおまえの想像力が足りないせいだ」

「え、え……? あ、だから階段が? だから私が魔法使いって、そういう事……?」

「そう。魔法、使いたかったんだろ?」


「一人で練習してんの笑えたよな」と、当たり前の様にそんな事を言うライオンさんは、何故だか少し嬉しそうに見えた。魔法使いとわざわざ言ったのはそういう事だった。彼はあの夢の出来事まで知っているのだ。私がえいっと指を振っていた、あの星の降る夜の丘の事を。まるであの子を通して、一緒にあの場にいたかの様に。


「いやでも、流石に読んだ事無い本は想像出来ないよ」

「……あー、確かに」


それもそうかと、納得した様子でライオンさんは私から本を受け取ると棚へ戻して、ふむ……と、考え込む。


「じゃあ次だ」


独り言の様に呟いたかと思ったら、くるりと向きを変えたライオンさんは私の同意を待たずに階段を下り始めたので、慌てて私も後に続く。彼は足が速いから置いていかれたら大変だ。

ライオンさんに続く様に外へ出ると、頭上には変わらず爽やかな青空が広がっていた。ピカピカのお日様が眩しいのに暑い訳では無く、とても気持ちの良い気候である。なんて住みやすそうな場所なんだろう……なんて浸っている暇もなく、ライオンさんはスタスタと迷いなく歩き出すので、私も歩きながら考える事にした。