ライオンさんの言う通り、それは魔法の様だった。一瞬にして思い描いた通りの階段が目の前に現れるなんて……流石に自分が魔法使いだとは思わなかったけれど、私の思った事が反映されたのは事実である。


「突っ立ってないでほら、読みたいんだろ?」

「あ、うん……」


行ってこいと、ライオンさんに促されるまま螺旋階段を一歩一歩上がり始める。視界を埋め尽くす本の壁は、背表紙の文字が読めるほどに近づくと、より一層その冊数に圧倒された。

こんなに沢山、一体どれだけの種類の本があるのだろう。不思議な事に、背表紙に文字が書いてあるのは分かってもその文字をはっきりと読む事が出来なかったので、試しに目に付いたものを一冊取り出してパラパラとめくってみる事にした。その内容は子供の頃に読んだ昔話の絵本そのままで、こんなのもあるんだなぁと、懐かしさにほっこりしながら元の位置へと戻すと、先程取り出した時には読めなかったはずの背表紙の文字が目に入る。

そこには、くっきりと今読んだお話の題名が記されていた。あれ? なんで読めるのだろうと、次は隣の本を取り出してみる。すると今度も同じ様に、表紙は読めなかったはずなのにお話が分かった後に本を閉じると、題名が読めるようになっていた。それはついこの間読み終わったばかりの青春小説で間違いなかった。

次も、その次もそう。読む前は分からないのに、読み終えた後には分かる様になっていて、そのどれもが以前読んだ事のあるものだった。まるで私の頭の中にある本の記憶が反映されたような……ん? あれは?

少し先にある一冊の本が目に入る。その背表紙にある文字はくっきりと形を持っていて、まだ開く前だというのに私にもはっきりと読み取る事が出来たのだ。それは以前、あの子と感想を語り合った、魔法が使えない魔法使いの物語。手に取り開くと、内容も変わらず全く同じものだった。