パシパシと膝を手で打ちながら満足げに言葉を並べられ、私は「かたじけのうございます」と答える。
 すると「若様ぁ?」と甘ったるい、鼻につく様な猫なで声が間に割って入った。小十郎様は、その声の主に視線を移し「何じゃ?」と尋ねる。
 どうやら、声を上げたのは右の上方に座っている女性らしかった。声も猫なで声だが、扇から覗く二つの目も猫の様に大きく丸い目をしている。
「贅言かと存じておりますが。一言、申し上げてもよろしいですかぁ?」
「何じゃ、申してみよ」
「この女子(おなご)を召し抱えるのは、私、いかがなものかと思いますわぁ」
「ほう?拙者の見立てが悪いと申すか、東姫(あずまひめ)」
 ギロリと小十郎様に射抜かれた、東姫と呼ばれた女性は、すぐに「そう言う訳ではございませぬ」と、嫋やかに首を振るが。浮かべられる冷笑が崩れる事はなかった。
「顔はまぁ良しとしても、容姿に艶やかさも何もありませんわぁ。染みついた貧乏臭さのせいで、薹が立っている様に見えますしぃ。この子を召し抱えると、若様の箔を落としかねませんわぁ。引いては伊達家の名誉にも、傷が付くやもしれませんのよぉ」
 悪びれもせず、蕩々と語られた言葉に、私は唖然としてしまった。
 まさか、こんなに容赦ない悪口を堂々と言われるとは・・・。
 猫なで声で可愛らしい声なのに、吐き出される言葉は全てが冷酷。
 驚きと恐ろしさが一気に綯い交ぜになり、複雑な感情に襲われ、どうすべきか分からなくなってしまう。
 反論をすべきだと頭の中で意見が生まれたが、言われた言葉の全てがぐうの音も出ぬ正論。故に、反論の言葉なぞ生まれず、私はただ全身を強張らせて、口を閉ざすしか出来なかった。
 そして「そうかもしれんが」と小十郎様から重々しく発せられた肯定に、私はやはりそうよねと肩を落とし、更に口を閉ざしてしまうが。意外にも、小十郎様から「だが」と言葉が続く。
「身につけている物を全てここの物に取り替えれば、問題無かろうて。暮らしていけば、染みついた貧乏さも抜けていくじゃろう」
 ぱんっと膝を打ってから「りんよ、お主は一日も早くここに馴染むのじゃよ」と、柔らかな笑みを浮かべながら、私に言葉をかけてくれた。