いいや、それはその女性だけではないわね・・・。
 私は身じろぎしながら、右に二人、左に一人と並んで控えている女性に、ちらと視線を移した。
 右の上方の女性と、左の上方の女性は同じような目つきをしている。もう一人はこちらを気にしつつも、チラチラと前三人の顔色を窺う事で必死だった。
 どうして他にも女性がいるのだろう。私は妻として呼ばれたのではなかったのかしら。もしかして私は「側女」として見初められたと言う事?
 夫婦二人で支え合うのだとばかりに思っていた私は、目の前の光景に憮然としてしまった。それと同時に、自分の考えがひどく甘かったと痛感する。
 夫婦二人で、なんて武家の殿方を相手には無理な話なのだわ。武家の殿方が、多くの女性を娶るのは普通の事だもの。伊達家ともなると、正室の他に側室を大勢召し抱えるなんて、当たり前なのよね。だからこうして他に女性がいる事も普通で、卑しい村娘を歓迎しないと言う事も普通なのよね。
 何もおかしくはないのよ。ただの村娘がそれを不満に思うなんて、この高貴な方達に対する不敬だわ。だから私は何も気にしない方が良いのよね。
 憮然としている愚かな自分を窘め、励ます様に、心の中で言葉を並べていると。
 唐突に「うむぅ、やはり美しき娘。拙者の目に狂いはなかったようだ」と、しかつめらしくも飄々とした声が聞こえた。
 私はその声で、暗然とした心の世界からはじき出され、現実にハッと戻る。
 声の主は、見るまでもなく小十郎様で、私は慌てて「お目にかかり、光栄の極みにございまする。りんと申します」と額ずきながら述べた。
 すると間髪入れずに、クスクスと言う冷ややかな嘲笑が漏れる。
 私が恐る恐る顔を上げて見ると、上方に座っている三人の女性達が、扇をパタパタと煽ぎながら、冷笑を零していた。所作は実に美しく、見事なまでに端麗だけれど。冷ややかな物がしかと含まれているせいで、美しさを感じるよりも冷淡な物を強く感じ取ってしまう。
 どうやら早くも女の勝負は始まっている様だった。冷酷な空気が女性達の間で流れ、私は否が応でも針のむしろに座らされる。
 この部屋で喜色を浮かべ、和やかな雰囲気を纏っているのは、ただお一人。小十郎様だけだ。
「りん、か。うむうむ、実にめんこい名じゃ。顔だけではなく、名もめんこいとはのぉ。うむ、益々気に入ったぞ。拙者の側女に相応しい女子だわ」