「来ているなら、知らせてくれないと」
婦人会会長の高井が、不機嫌そうに、言うと、お堂の入り口の襖を閉めた。
手には、風呂敷包みを抱えている。
「あー、すみませんねえー、つい、明日の祭り本番に備えて、人形の準備をしていたもので」
「はい、食事。気をつけて、お銚子入ってますから」
高井が、風呂敷包みを差し出した。
こりゃどうも、と、傀儡師は、頭を下げると、受け取った包みをお堂の隅で広げ、出てきた重箱の蓋を開けた。
「ほおー、いつもながら、うまそうだ。さすが、高井さん率いる婦人会ですなぁ」
「後で、重箱下げにきますから」
「後で……、いいんですか?」
ニヤリと意味深に笑う傀儡師に、高井は、顔を背けた。
「おや、ご機嫌斜めだなあ」
言うと、傀儡師は、高井の手首を掴み、そのまま引き寄せ唇を奪うと、床に組伏した。
「清さん、だめだったら……」
「おや、何がだめなんだい?」
傀儡師は、組伏している高井に意地悪く笑った。
「私は、お礼をしているだけですよ。村の婦人会へね」
ちらりと、傀儡師が望んだ先には、重箱にお銚子が2本添えられている。
他の者は、神社の社務所で、宴会を兼ねた、歓迎会とやらに参加していたが、傀儡師は、そういうのは苦手だと言って、いつも一人で食事を摂っている。
そんな傀儡師の為に、婦人会が、お堂へ食事を運んでいた。
「しかし、高井さん、いつもあなたが運んでいたら、何か言われやしませんか?」
それは、と、言葉を濁す高井のブラウスのボタンを、一つ一つ、傀儡師は、外して行く。欲望を、焦らすかのように。
あっ、と、高井は声をあげた。
「おお、そうだ、高井さん、ここ、弱かったんですよね」
「……清さん……」
普段は、村の婦人会会長として、皆ををまとめあげ、ときには、そのキツイ性格が煙たがられる高井は、ただの、女に、なっていた。
いや、傀儡師に操られる、人形のように、求められるまま肢体を差し出している。
口を半開きにし、ぼんやりとした表情を浮かべるそれは、男との逢瀬に溺れるモノではなく、どこか、無機質なモノだった。人間離れした、そう、人形のような……。
女は、筋書き通り、動く。傀儡師は、丁寧に、その動きを調整していく。まるで、人形寸劇を演じるかのように。
あぁっ──。
人形は、女へ戻り、絶頂の声をあげた。
傀儡師は、そんな女を見下ろしながら、ふっと、息をつく。
背を向け、乱れた衣類を整える女に、傀儡師が、声をかけた。
「高井さん、一杯、やってきますか?」
胡座をかいて、チビチビと、手酌しながら、傀儡師は、薄ら笑いを浮かべている。
それを見て、女は、すぐに、村の婦人会会長、高井の顔に戻った。
「……あたしたち……そろそろ……」
はははっと、傀儡師は、笑う。
「そもそも、年に一度の祭りなだけで、他に何があります?あなただって、夏の夜の情事なんてものを、期待してたでしょうに」
言うと、猪口を口へ運ぶ。
「なっ!あ、あなたが!」
「私のせいだと?」
からかいにも似た、傀儡師の言葉に、高井は、忌々しそうに目を細め、すっくと立ち上がると、そのまま、お堂を出ていった。
耳を覆いたくなるような、ピシャリ、と襖を閉める音を残して。
婦人会会長の高井が、不機嫌そうに、言うと、お堂の入り口の襖を閉めた。
手には、風呂敷包みを抱えている。
「あー、すみませんねえー、つい、明日の祭り本番に備えて、人形の準備をしていたもので」
「はい、食事。気をつけて、お銚子入ってますから」
高井が、風呂敷包みを差し出した。
こりゃどうも、と、傀儡師は、頭を下げると、受け取った包みをお堂の隅で広げ、出てきた重箱の蓋を開けた。
「ほおー、いつもながら、うまそうだ。さすが、高井さん率いる婦人会ですなぁ」
「後で、重箱下げにきますから」
「後で……、いいんですか?」
ニヤリと意味深に笑う傀儡師に、高井は、顔を背けた。
「おや、ご機嫌斜めだなあ」
言うと、傀儡師は、高井の手首を掴み、そのまま引き寄せ唇を奪うと、床に組伏した。
「清さん、だめだったら……」
「おや、何がだめなんだい?」
傀儡師は、組伏している高井に意地悪く笑った。
「私は、お礼をしているだけですよ。村の婦人会へね」
ちらりと、傀儡師が望んだ先には、重箱にお銚子が2本添えられている。
他の者は、神社の社務所で、宴会を兼ねた、歓迎会とやらに参加していたが、傀儡師は、そういうのは苦手だと言って、いつも一人で食事を摂っている。
そんな傀儡師の為に、婦人会が、お堂へ食事を運んでいた。
「しかし、高井さん、いつもあなたが運んでいたら、何か言われやしませんか?」
それは、と、言葉を濁す高井のブラウスのボタンを、一つ一つ、傀儡師は、外して行く。欲望を、焦らすかのように。
あっ、と、高井は声をあげた。
「おお、そうだ、高井さん、ここ、弱かったんですよね」
「……清さん……」
普段は、村の婦人会会長として、皆ををまとめあげ、ときには、そのキツイ性格が煙たがられる高井は、ただの、女に、なっていた。
いや、傀儡師に操られる、人形のように、求められるまま肢体を差し出している。
口を半開きにし、ぼんやりとした表情を浮かべるそれは、男との逢瀬に溺れるモノではなく、どこか、無機質なモノだった。人間離れした、そう、人形のような……。
女は、筋書き通り、動く。傀儡師は、丁寧に、その動きを調整していく。まるで、人形寸劇を演じるかのように。
あぁっ──。
人形は、女へ戻り、絶頂の声をあげた。
傀儡師は、そんな女を見下ろしながら、ふっと、息をつく。
背を向け、乱れた衣類を整える女に、傀儡師が、声をかけた。
「高井さん、一杯、やってきますか?」
胡座をかいて、チビチビと、手酌しながら、傀儡師は、薄ら笑いを浮かべている。
それを見て、女は、すぐに、村の婦人会会長、高井の顔に戻った。
「……あたしたち……そろそろ……」
はははっと、傀儡師は、笑う。
「そもそも、年に一度の祭りなだけで、他に何があります?あなただって、夏の夜の情事なんてものを、期待してたでしょうに」
言うと、猪口を口へ運ぶ。
「なっ!あ、あなたが!」
「私のせいだと?」
からかいにも似た、傀儡師の言葉に、高井は、忌々しそうに目を細め、すっくと立ち上がると、そのまま、お堂を出ていった。
耳を覆いたくなるような、ピシャリ、と襖を閉める音を残して。