(だけど、花梨には誤解されたくない……)

 会って説明したかったが何度メールを送っても無視されたままなのだ。どうすることも出来ないまま時間が流れている。昼休み、弁当の蓋を開けることもなくボーっとしていると、ヒョイと顔を覗き込みながら本田が言った。

「何だよ、その顔は、ちょっと目が腫れているぜ。泣いたのか」

「んー、ちょっとなぁ……」

 輝は、本田に事の経緯を簡単に説明していく。すると、本田は神妙な顔つきで呟いた。

「おおっ、それは切ないよなぁ。でもさ、話せば花梨ちゃんも分かってくれると思うぜ」

「そうだといいんだけどな」

「ていうかさぁ、そんなことよりさぁ、俺、あれから、ずっと考えていたんだよ。マルを殺した犯人ってさ、多分、あいつだよ」

 意外な台詞によって緊張感が突き抜けていく。

「誰だよ」

「公園で花梨ちゃんのことを、ジッと見てた男の顔に見覚えがあったんだ。それ、誰だったかなぁって、ずっと考え続けていたんだよな。今朝、駅の改札を通り抜ける瞬間に気付いたわ」

「はぁ?」

 何のことを言っているのか分からずに見つめると、教えてくれた。

「ほらほら、花梨ちゃんを盗撮したオタク野郎を捕まえただろう。影法師みたいな感じの、黒の上下の服を着た薄い顔の暗い目つきの男だよ」

 輝はアッと呻いた、盗撮野郎のことなどすっかり忘れていたが、眼鏡をかけた、ネツチョリした髪質のキツネ目の男だったような気がする。

「あいつ、おまえに突き出されてから、どうなった?」

「さぁ……。後のことは警察に任せている。俺は、そいつの顔も殆ど覚えてない」

「花梨ちゃんが狙われるかもしれないぞ!」

「えっ……?」

 輝は、ガタッと椅子から立ち上がる。あの時の奴の恨みがましい目付きと脅迫文の文字がリアルに炙り出されてきてゾッとした。

「まさか……」

 あいつは逆恨みしている。そして、今なお、花梨に執着している。だから、卑劣な形で復讐するつもりでマルにテをかけたのだ。このままだと花梨が狙われてしまうかもしれない!

 ナイフで花梨をメッタ刺しにする光景が目に浮かび血の気が引いた。

「早く、このことを花梨に言わないと……。何をするか分からない! やばい……。マルを殺したような変質者なんだぞ!」

「おい、輝、どうした!」

 輝は、いてもたってもいられなくなり、昼休みの教室を飛び出していく。