ケイと花梨の関係は、よく分かっているつもりだ。ケイはもうすぐ死んでしまう。花梨は友情を感じていると言っていたけれども、ああやって二人で並んでいると、まるで、太古の昔から寄り添っているかのように思えてくる。

 そして、足場が脆く崩れていくような不安を感じる。嫉妬とは別の、もっと不可思議な情感に薙ぎ倒されてしまいそうになる。

「ねぇ、輝くん、あなた、あの娘のことが好きなの?」

「ええ、好きですよ」

 挑むような目付きで言い切った、

 昨夜、倒れる前の事を輝も覚えている。どことなく邪なマリアの表情を脳裏に貼り付いている。昨夜のマリアの態度は少し妙だった。

「昨日のようなことはやめてください。迷惑なんです」

 思わず相手を咎めるような声になっていた。

「俺は遊びでキスをする趣味はありませんから」

「あら、野暮な子ね。怒ったの? あたしのことがキライなの?」

 マリアは自嘲的な笑みを浮かべている。輝にはマリアの真意はまるで分からない。気紛れにキスしたのか、それとも本気なのか測りかねていたけれど、自分の心の形ならばハッキリと分かっている。

「あなたにお世話になったことに関しては感謝しています。契約は今年の秋まででしたね。更新するつもりはありません。これきりにしたいんです。モデルの仕事はしたくありません」

「それはダメよ!」

 マリアの声が軋んでいる。

 しかし、輝の決意は固かった。ハンガーにかけられていた自分のアウターを羽織ると、足早に歩き出して行く。

「入院の費用は、あとで請求してください」

「待ちなさい! まだ具合は悪いのよ」

 しかし、振り向いてから宣言していた。

「誰の指図は受けません。言いなりになるつもりはありません。俺は、俺らしく生きたいと思っています」

    ☆
 
 輝は急いでいた。腹か空いているせいで眩暈がする。それでも花梨と話がしたかった。

 さすがに、ケイのいる場所に乗り込むような無礼は働きたくない。ケイに対しては敬愛の情のようなものを感じている。傷つけたくない。

 輝は、病院の出入り口のロビーの長椅子に座る。一人で静かにパンを齧った。二日酔いのせいなのか、味がよく分からないと感じて途中で食べるのを止めてしまう。

 ケイとの面会を終えたなら彼女は帰宅する。ずつと、ここにいたなら彼女に会える。

 しかし、そんな輝の肩を叩く人がいた。誰なのか分からなかった。しかし、相手は輝のことを知っている。花梨の兄は、この病院に勤務しているのだ。

「君は、花梨の何なんだ?」

 いきなり、そんなことを言われて驚いたが、怪しい人物のようには見えない。むしろ逆だ。相手は綺麗な白衣を着ている。医療関係者のようだと気付いた輝は、困ったように見つめ返していく。

「あの……、失礼ですが、あなたは誰ですか?」