花梨が、輝の頬を平手打ちして走り去った日以来、二週間も花梨は輝を遠ざけてきた。通学に使う電車に乗る時間さえもわざとズラしているのである。絶対に会わないようにしているが、そうやって意識するせいなのか、逆によく輝の姿を見かける。
 
 街中の雑誌やポスターなどが目に止まった。こんなにも輝が仕事をしていたとは気付かなかった。車内で新聞を読む人がいる。その紙面には遊園地で撮った腕時計のポスターも広告として掲載されている。
 
 花梨の喉が震える。
 
 駄目だ。切ない目で紙面からこちらを見ている。
 
 花梨の胸が激しく高鳴っていく。どうしたらいいのだろう。過去の記憶が花梨を急き立てる。

『いつもいつも、同じことの繰り返し……』

 満ちては欠ける月。破滅に向かって、運命の渦の中へと引きずり込まれていくのを感じる。

 すごく怖い……。子犬の死体。あれは、何かの前触れなのだろうか。
 
 不安が胸を押し潰している。でも、悲劇を避けるには彼を遠ざけるしかない。
 
 ケイの見舞った翌日の放課後、向かいのホームに輝が立っている姿を見かけてしまい、足が震えた。彼は、花梨とコンタクトをとろうと必死た。
 
(ごめんなさい! あたしのことは忘れて!)

 輝は、駆け寄ろうとしていたのに、花梨はそれを無視して電車に飛び乗っていたのだ。
 
 ちゃんと分かっている。いつも二人は互いを求めるが故に破滅する。もう、今度こそ、そんな過ちを犯してはいけない……。