核心に迫ろうとしている。マリアは本能的に恐怖を感じて顔を軋ませる。

 ケイは、淡々と事実を話そうとしていた。マリアは自分の輪廻転生に関して弟に語っていない。しかし、ケイは何もかも分かっているのだ。

「銀の城の妾のアランスは二人の不倫を派手に暴いて家臣達が騒ぎ出すように巧みに仕掛けていった……。イーリスに対しての嫉妬心が渦巻いていた」

 トリックスターのように周囲を引っ掻き回す女。嫉妬心が空回りして報われない。性悪な悪女。それが、かつての自分の真の姿。
 
「海賊の船。このの情婦のベスは、王子の軍の大佐に耳打ちした。姫がどこにいるのか通報したのは姉さんだった。だから、彼は、あの最後の日、海の真ん中で海賊達が包囲された……。冷静に考えてみてよ。破綻させるように追い詰めたのは、常軌を逸脱した美しい女だったんだよ」

「やめなさい! あたしは知らないわよ!」

 自分の惨めさや本当の姿を認めたくない。そんなの聞きたくない!

「アランスやベスのことなんて知らないわよ!」

「そうかもしれないね……。そうだと思いたいよね」

 すべてを許すかのような慈愛に満ちた表情で頷いている。

「姉さんは何度も同じ過ちを繰り返すような女じゃないよね。僕も、そう信じたい」

 何なのよ。その目は……。マリアは思わず目を逸らしたくなる。昔から、弟の聖人のような雰囲気が苦手だった。居心地が悪くなり椅子から立ち上がる。

「姉さん」

「なによ?」

「傷ついた魂を修復するために人は生まれ変わるんだとしたら、今がチャンスなんだ。残酷なループを断ち切ろうよ。悲しい運命を今なら変えられる。僕は、そんな気がする」

 姉の手を両手で握りしめた。何度も、人を愛して傷付け合う。その中で気付いたことがある。

「他人には理解できないかもしれないけれど、アランスもベスも決して悪い人じゃないってことを僕だけは分かっているよ。本当だよ。ちょっと足を踏み外しただけなのさ。冷静になれば、今度こそ彼女は幸せになれる。執着を手放せはいいだけなんだ」

「何を言うのよ。あたしは幸せよ。来年には結婚するのよ」

 ようやく演じる事の面白さと難しさが分かり出したというのに、結婚を機に女優やモデルの仕事を辞めることになっているのだ。家業を維持する為には、親にとって都合のいい相手と結婚するしかない。

「姉さん、父さんの言いなりになって無理をしなくていいんだよ。仕事を続けたいなら続ければいい。運命は変えられるってことを忘れないで。姉さんは、女優としての才能がある。大きく羽ばたく可能性を秘めている」

 いつも誰かに言ってもらいたいと思っていた言葉だった。ジンッと目頭に熱が浮かぶ。

「あんた、人の心配よりも自分の身体のことを考えなさいよ」