胸に迫る声が切ない。分かりましたと頷いてからエレベーダで一階に下りて外に出ると輝が待っていた。

「なぁ、マリアさんは何て言ってたんだ?」

 彼は、花梨が呼び出されたと聞いて、付き添ってくれていたのである。花梨は、輝をまっすぐに見上げて報告していく。

「今後は、輝くんとは会ったら駄目だって言われたの。そりゃそうだよね。あたしのせいなんだもん」

「いや、悪いのは俺だよ」

 違う。ユウジは明らかに花梨を挑発していた。

(ユウジの邪悪な顔を見て助けようと思った輝くんは悪くないわ……)

 それでも、今回の事件を機にけじめをつけなければならない。輝は未成年で花梨は二十歳だ。

「あたし、しばらく、あなたと会わないことにするね」

「しばらくって、どのくらい?」

 花梨は俯いて唇をキュッと結んだ。夕暮れの雑踏に視線を移してしばらく黙り込んでいく。

「分からないわ。でも、そうする方がいいと思うの」

「そんなの、よくねぇよ!」

 珍しく輝は声を荒らげている。こういうふうにキリキリと緊迫した顔を見るのは初めてかもしれない。

「ユウジには悪いことをしたと思っている。だから、俺、あいつに謝ったよ。土下座もした。向こうは、珍しく機嫌良く笑っていたよ。多分、明さんと仕事ができるからだと思う」

 輝は、毅然とした顔つきのまま告げている

「俺は、君の親に聞かれても恥ずかしくないように付き合いたい。これからも、人から後ろ指さされるような付き合い方はしないつもりだよ。俺は君に相応しい人間になりたい」

 輝は、自分の感情を素直に伝えようとする。花梨への気持ちを吐露するこたに躊躇などしない。

「俺は、花梨が好きだ。だから、付き合いたい」

 それは、初めて聞くストレートな言葉だった。好きという言葉をまっすぐら向けられると眩暈のような幸福と、それと同じ大きさの不安が生まれる。

「俺は、花梨のことで、いつも頭がいっぱいだ」

 輝は、花梨が何か隠しているような気がしていた。それが何なのか分からないことに焦れている。花梨の両肩を揺すっている。花梨も辛くて堪らない。

「……とにかく、ごめんなさい」

 ただ、そう言うしかなかった。

「最初は、俺のことが嫌いなのかなぁと思っていた。でも、そうじゃないことぐらい、俺にも分かるんだ……」

 その通りだ。好き同士なのに二人は言い争っている。神経質になり過ぎていることは、花梨も自覚している。

「何を隠しているのかを言ってくれ。いつもそうなんだよ! ちゃんと向き合ってくれよ。俺が近寄ろうとすると、ある地点からはスルッと逃げる。なんでだよ」

「笑われるかもしれないけども占い師に言われたの。あたしと付き合った相手は死ぬって」